”じゅんじゅんびや”を作ってもう一度食べてみたいなぁ・・・と思い、 夏みかんを探していましたが、 昔ながらの、房が固くしまってぱっつんぱっつんの酸っぱい夏みかんは もう最近は店頭には出回っていないんですね。 ”じゅんじゅんびや”とは、父が子供の頃に 夏みかんの薄皮を剥いて器に入れ、砂糖と重曹をふりかけて食べたものを こう呼んでいたもの。今のように柑橘類の糖度が高くなかった頃には、 酸味を中和させるために柑橘類に重曹をつけて食べることは 一般的だったようですが、これを”じゅんじゅんびや”と呼んでいたのは 父の生家の中でだけだったようです。 夏みかんの代わりに、こんな無骨な見た目の柑橘類を手に入れました。 袋には「川野みかん」とあります。甘夏の種類なのだそう。 ほんとうは、家の庭先に成っているような、食べると身が震えるほど すっぱい昔ながらの夏みかんでつくるほうが当時の味に近いのかなぁと 思いますが、それでも子供の頃に食べた味を思い出させてくれるには 十分なものでした! 砂糖を振りかけて、ほんとうはもっとスプーンで潰したところに 重曹を振りかけると、シュワシュワとサイダーのように泡が立ち、 口の中に重曹と酸味の中和した不思議な味覚が広がります。 ・・・そうそう、この味!!記憶していたよりも、もっとシュワシュワが効いて、 ちょっとした炭酸の効いたデザート菓子のようです。 * 子供の頃、台所の引き出しの中に入っていた 黄色い箱の重曹の粉をひと舐めして、そのあまりの不味さに悶絶し、 「どうして台所にこんな不味い味のモノが置いてあるんだろう・・・!?」と、 ビックリ、七転八倒した覚えがあります。 アナ・トレント主演の映画「カラスの飼育」の中で、 アナ演じる主人公の少女がやはり台所で見つけた缶入りの重曹を ゾウも殺せるほどの毒薬だと信じ、叔母の飲むミルクのグラスに 白い重曹の粉を混ぜ・・・。もちろん叔母がそれで命を落とすことは なかったのですが、そうそう、誰だってあの重曹をひと舐めすれば、 毒薬だって信じるはずだもの、と映画を見ながら 一人、ひそかに重曹悶絶体験を反芻していたのでした。 ・・・ 父の生家は千葉県の下のほう、房総半島の 海近い町で、通年家々の庭先の夏みかんの木に 黄色い実がたわわになっているような、温暖な気候の土地柄です。 ”じゅんじゅんびや”の語源ですが、明治時代に ラムネのことを「ジンジンビア」と呼んでいたとの記述が 坪内逍遙の「当世書生気質」という本に登場するとのこと。 (これは二十年前の父の発見で、ワタシはこの本は未読。) 「ジンジャーエール」が転じて「ジンジンビヤ」になったものか、 あるいは炭酸の刺激で「ジンジン」して「ヒヤッ」と冷たかったからなのか、 どんな由来かは定かではありませんが、 明治頃、父の生家の誰かが東京(?)ではじめて「ジンジンビヤ」=ラムネを 飲み、それをこの夏みかんの重曹の菓子の上に名前をあてたのかな、という 想像です。 * この硝子の器、数年前にお寺の骨董市で見つけたときに 「この器は”じゅんじゅんびや”を作るためのもの!」と思って買ったものなので、 これで本懐遂げました。(笑) もっとも今年の夏も暑そうなので、この器に合いそうな水菓子、お菜(さい)と あれこれ日替わりで活躍しそうな、そんな予感のこの頃ではあります。 ☆ 追記おまけ: 「川野みかん」といっしょに、ルバーブも少し送られてきました。 さっと小鍋で手早くジャムに煮るくらいの量です。 子供の頃から、よく外国の本にルバーブのジャムやパイが登場するので、 いったいどんな味なんだろう?とずっと気になっていた食材のひとつです。 繊維質の茎を2cmくらいのブツ切りにすると、赤と緑のグラデーションが リチア電気石(ウォーターメロントルマリン)を思わせます。 この電気石、もといルバーブのブツ切りに砂糖をかけて放置、水分の出た ところで火にかけると、みるみるうちに繊維がやわらかくなり、 ルバーブの砂糖煮がすぐにできあがりました。 きっと、もっと地味でとんでもない色合いになると思っていたので、 (青梅のジャムのことがあるので)思っていたよりもシックで綺麗な色味に 仕上がったなぁと思います。生で囓ると酸っぱいルバーブ、 砂糖煮にすると独特の芳香のある初夏らしい風味のジャムになり、 電気石色の小さなひと壜は、しばらくの間朝の食卓の上で 目と舌を楽しませてくれました。 ☆
by junekite
| 2011-07-03 01:06
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